「いいコト探し」の地域づくり
つながりと支え合いの生活文化を「見える化」
つなささ特報・2026年7月16日掲載
上:地域支え合い推進員・正岡幹子さんが出前講座で使用するスライドの表紙 〈表紙画像をクリックすると全ページをご覧になれます※ウェブ用編集版〉
地域支え合い推進員が情報発信に注力
佐川町社会福祉協議会は「つながりと支え合いの生活文化」を地域福祉の資源と位置付け、情報発信に力を入れています。偶数月発行の広報誌「社協だより・えがお」に「地域のいいコト探し」と銘打った紹介コーナーを設け、2018年8月から現在まで連載を継続中です。また、町内各地区で「地域のいいコト」をテーマに出前講座を開いています。
「地域のいいコト」(以下、いいコト)を見つけて取材し、記事や出前講座で紹介しているのは、町社協所属の地域支え合い推進員(生活支援コーディネーター)です。いいコトの「見える化」は、推進員の重要な役割となっています。
結果的に「見守り」「介護予防」
いいコトとして取り上げられるものには、住民が自主運営するサロンやサークル、地域食堂などがある一方、日常の暮らしのなかにある小さな一コマ、と言っていいようなものもあります。これまでの記事からいくつかを選んで、以下に要約を記します。
・肥料販売店に近隣の親しい高齢女性たち6、7人が日々集まり、おしゃべりを楽しむ。女性たちが地区に嫁いできた60年ほど前から、店は集いの場になっている
・70~90代女性4人が20年以上前から週に1度はお茶飲み。お茶飲み場は、90代女性宅の玄関脇にある「純喫茶」風のティールーム。かつては物置だったが、仲間たちが気軽に集えるよう家族の協力を得て改装した
・昭和16年生まれの男性4人が「同窓会」と称して月2回集会施設でおしゃべり。口コミで参加者が増え、女性も加わるようになり、多いときで10人以上が集まる
・集会所での介護予防体操が終わったあと、参加者が一人暮らし高齢女性宅に移動してお茶飲み、おしゃべり。介護予防の楽しい2次会
・毎朝ウォーキングをする女性3人組。歩きながら生活に役立つ情報を交換したり、一緒に買いものやイベントに出かける相談をしたり
・集落の景観美化を目的とした花畑整備を、町の補助が終了したあとも自主的に継続する2人の高齢男性。ヒマワリやコスモスなど季節の花が見頃を迎えると、花畑は住民交流の場に
・集会所に移動販売が来るのに合わせて集まる高齢女性5、6人。販売車を待つ間、敷地の草むしりをしたり、おしゃべりの花を咲かせたり
いかがでしょう。これらは必ずしも介護予防や見守りを目的とした活動ではありません。それでも、結果的に介護予防サロンや見守りネットワークと同等の効果が期待できます。
形式にとらわれず、自分らしいスタイルで
行政や社協などの支援に頼らず、住民が自発的、自主的、長期継続的に運営できている上掲の事例は、サロンや見守りの望ましいあり方について貴重なヒントを示しているのではないでしょうか。すなわち、介護予防や見守りの活動は必ずしも特定の形式にとらわれなくてもいい、一人ひとりがそれぞれの得意なことや好きなこと、つながりを生かして、自分らしい介護予防や見守りのスタイルを持てばいい、ということです。
いいコトの記事には一般的なサロンやサークルの活動紹介もありますが、これらと家や店でのお茶飲みや少人数のグループウォーキングなどをあえて同じカテゴリーで扱うのは、サロンや見守りは多彩なあり方があっていい、という住民へのメッセージなのです。
仲間とのつながりが「チーム・オレンジ」
親しいつながりを持つ人たち同士では、仲間の体調不良や「家の草刈りができない」「自力で買いものに行けない」といった困りごとにすぐ気づきます。気づけば放ってはおかず、車に乗せて買いものや通院を手伝ったり、草を刈ってあげたりします。自分たちで手に負えない困りごとも、家族や友人知人のツテをフル活用して対処してしまうことが少なくありません。事実上の「生活支援」が行われています。上掲の事例のなかには、やや認知機能が低下している人が加わっているものもあります。その場や仲間たちは、まるで「認知症カフェ」「チーム・オレンジ」のようでもあります。
現在推進員を務める正岡幹子さんは、さらにこう指摘しています。「地震や風水害などの際には、仲間同士のつながりがいち早い安否確認や避難誘導などにきっと役立つでしょう」。何気ない暮らしの一コマとしてのいいコト、つながりと支え合いの生活文化は、災害などの非常時には命を守る力にもなると期待されています。
「ぷちサロン」登録で助成金支給も
町社協は2024年度、いいコトとして取り上げられるような数人のお茶飲みなども含む小規模な集いの場を「ぷちサロン」として登録する制度を設けました。集会所はもちろん、家や商店、飲食店など、高齢者がある程度定期的に集う場・グループであれば登録申請が可能です。登録すれば年間5千円の活動助成金が交付されます。
2026年7月時点で9グループが、ぷちサロンとして登録。そのうちの一つに、日頃から家でお茶飲みをしている高齢女性グループがあります。女性たちは助成金を活用し年に1度、外食を楽しむ「ちょっぴり特別なお茶飲み」の機会を設け、親睦を深めているとのことです。
出前講座で「いいコト」への理解広める
出前講座はこれまで、共生型の地域福祉拠点「あったかふれあいセンター」(町内5地区に開設)を会場に開かれています。推進員の正岡さんは、複数の具体事例を写真入りのスライドで示しつつ、場や活動の背景にあるつながりと支え合いをひも解き、それがなぜ「いいコト」なのかを説明。そのあと、講座に参加した人たちが持っている、あるいは知っている、いいコトの情報を募り、それを手がかりに取材に入ります。取材の成果は、広報誌の記事や出前講座のスライドに反映されます。
こうした見える化のサイクルの繰り返しによって、いいコトへの理解と共感が各地区の住民に広がってきています。従来、取材の手がかりは正岡さんが各地区で聞き取り調査などをして得ていましたが、現在は住民やサロンの世話人などから「こんないいコトがあるからぜひ見に来て」と情報が寄せられることも多くなっています。
いいコトを生かす地域づくりは、このような地道な活動の積み重ねでゆっくりと、でも着実に、進んでいきます。
下:社協だより「えがお」(第146号)の表紙と、「地域のいいコト探し」コーナー掲載ページ 〈表紙画像をクリックすると全ページをご覧になれます〉
※本ウェブサイト「情報提供」ページにも佐川町の記事があります。併せてご覧ください。
(記事で紹介している人物の年齢・所属・役職、団体の活動などはいずれも取材時点のものであり、現在とは異なっている場合があります)
《以下のタイトルをクリックすると「情報提供」ページ掲載の関連記事を直接ダウンロードできます》
〈補足解説〉
なぜ佐川町は住民活動が盛んなのか
各地区の拠点を中心に多彩な活動
高知県佐川町には、5つの小学校区それぞれに「あったかふれあいセンター」や「集落活動センター」といった住民活動の拠点があります。各地区の拠点とこれを運営する住民組織を中心に、誰でも利用できる常設サロンをはじめ高齢者の介護予防や見守り、各種生活支援、子育て支援、多世代交流、環境の美化・保全、地区の歴史・文化・自然を生かした地域おこしなどなど、さまざまな活動が展開されています。
私、情報室・木村は2017年から毎年同町を訪ね、各地区の拠点と住民組織の活動を取材してきました。取材のテーマは「住民組織の立ち上げ支援」「就労的活動支援」「住民・専門職連携」「コロナ禍での住民活動」「つながりづくりの伝統行事」「よそ者の力を生かす」などまちまちですが、いずれも優れた実践を確認することができました。
アイデアや思いの「タネ」を芽吹かせ育む「土壌」
同町の優れた住民活動の実践を知るほど、次のような疑問がわいてきます。なぜ同町ではこれほど住民活動が活発なのか。自発性と主体性をもって拠点を確保し、その運営を担い、コロナ禍にあってさえ活動の幅を広げていけるのはなぜなのか(※本ウェブサイト情報提供ページに掲載の「コロナ下の住民活動と地域の拠点~集う・つながる・支え合う実践の現場~高知県佐川町」参照)。
住民の誰かが何らかの活動を起こしたいと思い立ったとき、その思いやアイデアを気兼ねなく打ち明け、周囲と共有する機会があります。そして、必ずと言っていいほど理解と共感を示す人たちが現れます。有志が集い、構想を練って計画を立案し、ついに実践へとこぎ着けます。実現した活動を「果実」にたとえると、住民のアイデアや思いは「タネ」。このタネを芽吹かせ生長させ、結実へと導く「土壌」は一体は何なのでしょうか。私は、それは住民同士のつながりだと考えています。
食べものや情報を共有するのが「近所」
佐川町はつながりが豊かです。一人暮らし高齢者の様子がいつもと違えば、近隣の誰かがすぐに気づきます。気づけば声を掛け、できる範囲で手を差し伸べる、そんなことが日常茶飯事です。近隣同士で顔を合わせれば気軽にあいさつを交わし、井戸端会議に花が咲きます。いつの間にか玄関先に野菜などのおすそ分けが置かれていたりします。主に高齢世代の親しい人たちは、家や商店などに自分たちの「お茶飲み場」を持っていることがあります。集会所や各センターのサロン活動以外に、日々の暮らしの一コマとして、近所付き合いとして、小さな集いと支え合いが営まれています。
2024年2月、私は同町の中心市街地・佐川地区で10代後半から60代前半までの現役世代55人に「近所付き合い」や「将来の高齢期の暮らし」に関する意識調査をしました。協力者の一人、地元出身在住の10代後半女性(高校生)は、近所付き合いについて、私にこう話しました。
「この地区の人たち、おじさん、おばさん、おじいさん、おばあさんはみんな気安く声を掛けてくれるし、優しく接してくれる。みんな顔見知り。だから、安心して暮らしていられると思う。地区全体が『近所』という感じ。でも、私の友だちは町全体にいるから、そういう意味では、町全体が近所かもしれない。よく近所の人たちから食べものをもらったり、こっちがあげたりする。友だちが、オススメのお店とか美容師さんとかを、教えてくれたりする。そうやって、食べものや情報を共有できるのが『近所』だと思う」
「ここが好き。ずっと住み続けたい」
高校生が同世代だけでなく「この地区の人たち、おじさん、おばさん、おじいさん、おばあさん」と親しいつながりを築ける背景の一つに、多世代が参加するお祭などの行事がよく保たれていることがあげられます。それを裏付けるように、彼女は「地区のお祭りの準備とか片付けとかに参加している。近所の人たちと一緒にぼんぼりをつるしたりとか、飾り付けをしたりとか」とも語っています。
同町では各地区に大小さまざまな祭りや郷土芸能などが継承されています。また、運動会や文化祭などの交流イベント、道路や公園、集会施設などの清掃や草刈りといった共同作業も連綿と受け継がれています。そして祭りや運動会などのあとには必ずと言っていいほど慰労と親睦の宴席が設けられ、子どもたちもしばしば参加しジュースで乾杯、ともに飲食を楽しみます。
彼女もそうした経験を積み重ねてきました。その彼女に、将来にわたっていま暮らしている地区に住み続けたいかと尋ねると、「ずっと住み続けたい。ここが好きだし、ここに住んでいる人たちも好きだから」と満面の笑みを浮かべて答えたのでした。
つながりと住民活動の好循環、社協がサポート
つながりという豊かな「土壌」は、お祭などのイベントによって定期的に耕され、一層豊かさを増します。豊かな土壌が伝統行事を守り、新たな活動のタネを芽吹かせます。つながりがあるから住民活動が盛んで、住民活動がつながりを育む、好循環です。その循環を基盤に、あったかふれあいセンターや集落活動センターといった各地区の拠点づくりと、それを運営する住民組織の立ち上げ、そして拠点と住民組織を中心としたさまざまな活動が展開されてきました。
組織づくりや拠点づくり、活動の展開は、地域福祉アクションプラン(地域福祉計画および地域福祉活動計画)に基づいています。各地区の住民が地区プランの策定や進ちょく状況の確認に携わります。第1次プランの策定作業は、準備期間も含めれば2005年度にスタートしました。以来20年が経過、その間に組織や拠点が整備されてきました。現在は第4次プラン(計画期間24~29年度)が進行中で、組織や拠点の活動内容のさらなる充実が図られています。
プランの策定やその内容に沿った各地区の実践は、佐川町社会福祉協議会によって長期継続的にサポートされています。タネや土壌のたとえに即して言えば、町社協のサポートは苗の生育に合わせた肥料や水の管理作業にたとえられるかもしれません。こういった「作業者」の存在は、土壌の豊かさを生かし、タネや苗が持つ力を発揮するのを大いに助けてくれます(※本ウェブサイト情報提供ページ「miyagiまちづくりと地域支え合い」先進の地から・その18[前]「これぞ協議体!10年以上続く話し合いと地域づくり」高知県佐川町、同[後]同を参照)。
「コロナ禍でも自分たちで考え、活動を継続できる」
土壌(つながり)の豊かさと住民活動の好循環は、コロナ禍にあっても途切れませんでした(※前掲「コロナ下の住民活動と地域の拠点~集う・つながる・支え合う実践の現場~高知県佐川町」参照)。当時の状況について、2020年7月まで地域支え合い推進員(生活支援コーディネーター)を務め、現在コミュニティソーシャルワーカーとして活躍する田村里桜さんは次のように述べています。
「それぞれの地区の住民がコロナ禍でもできること・できないことを検討し、できることをやっていこうと、すごく創意工夫といいますか、よく考えて住民活動を継続されていました。誰か(社協などの支援者)の手を借りなくても、自分たちで考えてさまざまな活動や行事を運営をしていける。そこが一番すごいところです」
住民活動をあと押しする社協職員らの姿勢や手腕はもちろん重要なのですが、優れた実践が生み出されるのは、繰り返しになりますが、豊かな土壌としての住民同士のつながりがあることが前提となっているようです。仮に佐川町の社協職員と同じ姿勢・手法を別のまちのつながりの薄い地域で試みても、おそらく成果は思うようにあがらないでしょう。
「地域のいいコト」を掘り起こして見える化
誰もが暮らしやすい地域づくりに何より必要な資源は、住民同士のつながりです。この資源はあまりにも暮らしに根ざし、日常的であるため、資源として捉えにくい面があります。つながりは信頼に彩られた親しさであって、ヒモやロープのように目に見えるものではありません。ただ、前出の女性の言葉を借りれば「食べものや情報を共有」する行動、たとえば井戸端会議やおすそ分け、お茶飲み、ランチ会、飲み会などを一緒に楽しむ様子から、その存在を感じ取ることができます。
日々のちょっとした、無数の、小さな交わり。その背景にある豊かなつながり。それが、あったかふれあいセンターなどの拠点をつくり出し、長期にわたって運営し、活動の幅を広げていくといった大きな取り組みの土台になります。だからこそ、町社協の地域支え合い推進員は各センターや集会所などでの活動だけでなく、小さな住民の集いと交流にも目を向け、足を運びます。それを丁寧に取材して「地域のいいコト」として社協広報誌などで紹介し、見えにくい資源への理解や共感を広げていこうとしています。
つながりを大事に守り継いでいくために
地域づくりは私たち住民一人ひとりが自分らしいつながりを育み、大事に守っていくところからすでに始まっています。そのことを踏まえた佐川町社協の推進員の活動は、とても地道なものです。その効果は定量的には測定しづらいかもしれませんが、つながりという土壌の豊かさを保っていくうえで、とても重要な仕事です。
神社やお寺の祭り、神楽などの郷土芸能、観音講、地蔵講などの伝統行事がよく保たれている地域には、私が取材した範囲では、必ずと言っていいほど肥よくな土壌があります。こうした伝統行事がない都市部の住宅団地でも、自治会・町内会などの地縁組織の活動が30年、40年と積み重ねられてきたところでは、お茶飲みやおすそ分けといった近所付き合いに象徴される豊かなつながりが育まれています。ただ、社会情勢や生活様式の変化に伴い、この土壌がやせていくのではないかと不安視する声が多く聞かれるのも事実です。
暮らしのなかにあるつながりという、見えにくい資源を探して見える化し、誰もが暮らしやすい地域づくりの土台として大事に守り継いでいく気運を醸成する、そんな取り組みが、佐川町だけでなく、多くのまちに広がってほしいと願うばかりです。